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八岐大蛇 自然と土着民のシンボル

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八岐大蛇 自然と土着民のシンボル

出雲の斐伊川に棲む身が一つで頭・尾が八つあるという大蛇。 風水など自然への 畏れが伝説化したもの。スサノヲの大蛇退治は宗教的・政治的な大和優位を示す。

●退治すべき妖怪

古代神話に登場する妖怪のなかで、もっとも著名な妖怪は、八岐大蛇である。 八岐大蛇は、出 雲の肥の川上(島根県の斐伊川の上流)に棲む、体は一つで頭と尾が八つという異形の大蛇であっ た、とされている。

八岐大蛇はオオヤマツミの娘を毎年一人ずつ人身御供として要求していたが、たまたまこの地 を通りかかったスサノヲによって退治され、その体内から天皇の地位にあることを象徴する、い わゆる三種の神器の一つとなる神剣が発見される。天叢雲剣とも草薙剣とも呼ばれる神剣で あめのむらくものつるぎ ある。

八岐大蛇 てんそん 八岐大蛇については、山の神だとか、水神だとか、いや谷の神だとか、いろいろな解釈がなさ れているが、そのいずれであるにせよ、大蛇の一種としてイメージされ、しかもアマテラスース サノヲの天孫系の人びとにとっては邪悪な退治すべき妖怪とみなされていたのだ。

興味深いのは、大蛇や竜神が体内に不思議な宝物を隠しもっているという話が、このあとも繰 り返し語り続けられることだろう。 もっとも、のちの説話では、大陸から入ってきた竜神信仰の影響を受けて、竜神の宝物は「如意宝珠」と呼ばれる珠だとされることが多い。しかし、この珠 は、 玉であり魂であったのだ。

ここで想い起こされるのは、海幸彦山幸彦の物語である。 兄の海幸から借りた釣り針をなくした山幸は、海底の海神のところに行って釣り針を返してもらうとともに潮満珠・潮干珠という一対の珠を贈られる。 潮の干満を自在にすることができる不思議な珠であった。 『日本書紀』允恭天皇の条にも同様の話がみえている。淡路島で天皇が狩りをしていたが、ま ったく獲物がないので占ったところ、島の神の祟りとわかった。神がいうには、海底にある真珠 を手に入れて神に奉ればよい、という。そこで海人を使って珠を手に入れて神を祀ったところ、 獲物がたくさん獲れるようになったという。

●体内の「如意宝珠」

天皇ばかりでなく、摂関政治を行なって権力者としてふるまった藤原氏の始祖伝説のなかでも 同様のことが語られていた。中世に流布した伝説によれば、藤原不比等が興福寺を建立するにあ たって、唐の帝が所有する「如意宝珠」をそこに納めようと望み、ようやく唐の帝から譲り受け た。ところが、帰路の船が竜神に襲われて宝珠を奪い取られてしまう。だが、不比等が妻とした 海人の身を賭しての助けを借りて、ようやくこれを取り戻すことができたという。謡曲の『海人』 の素材となった伝承である。

こうした話と八岐大蛇の話を重ね合わせることで浮かび上がってくるのは、天皇や藤原氏のよ うな支配者は、人間界つまり「文化」の領域だけでなく、異界つまり「自然」の領域をもコントロールする力を所有していなければならず、そのために「自然」の象徴たる大蛇や竜神を退治し たり、欺いたり、あるいはなだめたりしていたのだ。そして「自然」を制御しているというあか しが「自然」のエッセンスともいうべき珠を手に入れることであった。八岐大蛇の体内の神剣は、大蛇の“珠”つまり”魂”であったのだ。 アマテラスとスサノヲに代表される天孫系の支配者たちは、八岐大蛇を退治することで支配者 としての正当性を主張していたのである。したがって、深読みすれば、八岐大蛇とは天孫系の人 びとの意のままになかなかならない自然界の象徴であるとともに、抵抗を続ける土着の政治勢力 の象徴でもあったのだろう。

古代の権力者たちは、こうした如意宝珠を手に入れることで自ら「自然」を意の如くに操作し うると考えていた。だが、中世になると、こうした能力は次第に衰退し、支配者を守ってくれる のは武士の剣であり、陰陽師や僧たちの呪力であった。そうした変質のなかから妖怪を退治する 武将や宗教者たちの伝説が語り出されてくる私たちは、後世の妖怪退治伝説のなかで再び神剣 や宝珠に出会うことになるであろう。

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