
2009年流行語大賞にノミネートされた言葉に「婚活」がある。社会学者・山田昌弘が提唱した造語で、就職活動を指す「就活」をもじった結婚活動のことだ。結婚を望むなら、就職と同様、情報を集めて積極的に動く必要があるという意味が込められている。08~09年にかけて、結婚相談所の宣伝コピーやテレビドラマ、雑誌の特集として婚活の2文字が躍り、メディアも婚活を煽った。だが皮肉にも、ブームを逆手にとるような凶悪事件が、首都圏と鳥取で相次いで発覚した。奇しくも、ふたつの事件は極めて似通っている。犯人の女はいずれも30代半ばの、肥満体形。判明しているだけで、死亡した男性はそれぞれ6人。睡眠導入剤を使って相手を眠らせる手口も共通だ。彼女らは、婚活さながらに、狙いを定めた男性に甘い言葉で近づき、金を貢がせた。従来の犯罪用語なら“結婚詐欺”だ。言い換えれば“婚活詐欺”だ。だが、いずれの事件でも、おおぜいの男性が金銭のみならず、命まで奪われているという点である。

木嶋佳苗が最初に立件された殺人は、婚活サイトで知り合った大出嘉之さんに結婚の意思があるように装い、大出さんからだまし取った約470万円の返済を免れるため、練炭自殺に見せかけて殺害したというもの。09年8月、大出さんに催眠導入剤を飲ませて眠らせ、埼玉県富士見市の駐車場に止めたレンタカーの助手席で練炭をたき、急性一酸化炭素中毒により死亡させた。これまでの調べで、木嶋は、殺害に使われた七輪や練炭と同じものを事前に購入しており、大出さんの体内から検出されたものと同じ睡眠導入剤を処方されていたことも判明している。このほか、千葉県松戸市の資産家の男性(70)やヘルパーとして出入りしていた先の男性(80)ら、木嶋の影がちらついた直後に、死亡している。
木嶋の事件で特徴的なのは、婚活サイトで知り合った男性に結婚願望を伝え、独身の男心をくすぐる言葉をちりばめたブログで気を引くという手口だ。08年に始めたブログ「かなえキッチン」に男性たちを誘導し、手の込んだ手料理の写真を見せたり、一流ホテルや女優御用達の美容室を利用した日記を読ませることで、自らを「育ちの良い家庭的な女性」であるかのように信じ込ませていた。彼女が吸い上げた金は、総額1億円以上にものぼるとみられる。不審死した男性6人のうち、少なくとも3人の現場に練炭が使用され、さらに大出さんらふたりの遺体から木嶋が使用していたものと同じ睡眠導入剤の成分が検出されている。
一方、鳥取の男性連続不審死事件では、犯人の上田美由紀は同年10月、円山秀樹さんに睡眠導入剤などを飲ませて意識をもうろうとさせたうえ、鳥取市内の摩尼川に誘い出して水死させ、家電代金約123万円の支払いを免れたとして、強盗殺人罪が適用された。遺体から検出された睡眠導入剤の成分は、上田が知人から入手した薬と一致した。
上田の事件では、自らが勤めるスナックに客としてきた男性たちがターゲットになった。
「彼女は客の隣に2、3回ついただけですぐ男女の仲になる。一度寝てしまえば、あとは結婚したいと甘い言葉で相手をメロメロにして、お金を引っ張るんです」(元同僚ホステス)


彼女には元夫との間に儲けた5人の子供がいたが、その子供たちにも「パパ」「お父ちゃん」などと呼ばせて、男性たちになつかせていた。不審死した男性の中には、読売新聞記者や鳥取県警の刑事もいた。
木嶋、上田の2人はいずれも、詐欺についてはおおむね認めているものの、被害者を殺した件は、頑なに否認したままだ。今後、裁判にかけられた場合、状況証拠だけで公判の維持をしなければならず、その場合、裁判員の心証は極めて悪い。捜査当局は、なんとしても双方の自供を引き出そうと躍起だが、事件の全容解明には大きな困難が予想される。
いずれにしても、ふたつの事件以降、婚活という言葉が大きくイメージダウンしたことは否めない。ある大手結婚紹介サイトでは、事件の報道がエスカレートするにしたがって、婚活をあきらめて退会する男性会員が続出しているという。また、事件を受けて、福島瑞穂消費者・少子化担当大臣が「結婚詐欺などのネット犯罪が話題になっている。消費者問題として、ネット犯罪をどう防げるのか検討したい」とコメント。今後、出会い系サイトや婚活サイトの運営に対して、規制が強められる可能性も出てきた。
ただでさえ“草食系男子”が増加し、女性上位の社会になっている昨今。木嶋と上田が起こした事件はよりいっそう男性の草食化に拍車をかけ、わが国の少子化が進むことになるかもしれない。


